シリーズ

1983年 北海道
-2- 岩内線 14.9km (1985年6月30日廃止)

 北海道へ初めての上陸。何か空気までが違うように思える。函館駅の連絡通路をホームへと向かう。階段を降りて緩くカーブを描くホームに立つと、この駅がひどく田舎臭く感じられた。そのローカルムード満点のホームの両側にディーゼル特急が入っている。片方は網走行「おおとり」でキハ82系。もう一方がこれから乗る札幌行13D「北海3号」だ。こちらは最新型のキハ183系で、先頭の自由席禁煙車進行方向右側窓寄の座席に着く。この車は以前から一度乗ってみたいと思っていた。先頭部の角ばったスタイリングが面白く車内設備も新幹線並みなのだ。

 隣の「おおとり」が先発し、続いて11時45分我が列車も函館を発車。エンジンが床下で唸りをあげ、徐々に加速してゆくが、この車のエンジン音は相当なもので、地下鉄並の騒々しさだ。新型車なのに客室内がこれほどうるさいとは思わなかった。設計上の問題だろうが旧型車の方が余程静かな位だ。

 駅構内を出て寂れた感じの市街が後方へ去ると、列車は広々とした景色を見せながら快調に飛ばす。その走りも七飯を過ぎた辺りまでで、登り坂にかかるとスピードが極端に落ちた。トンネルを抜けて大沼を通過、いかにもリゾートという感じの白樺と湖の風景が展開する。天気も良く光線が眩しい。大沼公園を発車すると今度は正面に駒ケ岳が姿をあらわす。真青な空に黒く山肌が浮かび上がっている。その雄大な眺めは北海道を実感させるのに十分すぎる位だ。列車が進むにつれ山の形は変化を見せ、やがて視界から遠ざかる。

 駅弁の「いかめし」で有名な森を出ると内浦湾に沿って走る。平坦な区間になったのでスピードが乗る。国道を並走する車を次々に追い抜いてゆくのは実に気分が良い。行く手には海岸が円弧を描き、海の群青に白い光の鱗が眩しく映える。車内は暖かく、心地良い列車の揺れも手伝って、ついうとうとする。慌てて目を擦っては外を見る。軽快に走り続けて、13時25分、長万部(おしゃまんべ)着。架線がないので駅構内がやけに広々として見える。2分停車。

 室蘭本線の線路を右手に分岐すると、再び登り坂にかかる。エンジンが唸りをあげ、また山の中を走る。列車が進むにしたがって天気のほうもだんだん雲行きが怪しくなってきた。途中駅で急行「ニセコ」と行き違った。「ニセコ」は特急用客車の14系座席車を使用しており、同じ急行料金なのに昨夜の「八甲田」とは随分待遇が違う。東北線の客は損をしている。しばらくして、とうとう雨になった。


Iwanai station
岩内駅の駅舎

 14時53分倶知安(くっちゃん)に到着。ここで途中下車して駅前へ出てみる。みぞれまじりの悪天候に街も灰色に沈んでいた。羊蹄山もニセコアンヌプリもガスがかかっていて全然見えない。ここで約40分の待ち合わせ。これからニセコバスに乗り岩内(いわない)へと向かうのだが、今回の旅行プランの中でもここが一番の苦心作だ。本当は列車だけを乗り継いで岩内線を往復したいのだが、接続が非常に悪く今晩の札幌到着が大幅に遅くなる。ところが北海道時刻表を見ると都合良くこのバスがあり、これを利用するとその後の接続もスムーズで札幌にも早く着ける。岩内と小沢(こざわ)での乗り継ぎはまさに絶妙のタイミングと言っていい。

 バスは満員の客を乗せて出発した。小さな町を出て山中の整備された国道を快調に進む。停留所毎に客が減り車内が静かになってくる。雨に濡れた紅葉が美しい。途中で国道から左に折れ一般道へ入った。しばらく走ったところでふと右手を見ると2両編成の赤いディーゼルカーが並走しているではないか。あれがこれから乗る列車になるものと思われる。列車はバスを追い抜いて走り去った。バスが遅れはしまいかと気が揉める。

 案ずるまでもなくバスは1分程の遅れで岩内の駅前に到着した。駅前広場から街並みを眺める。整然とはしているが寒々とした町だ。天気が悪いせいかそんな印象を持った。岩内線の列車には9分で接続だ。その間に駅舎の写真を撮り、記念に入場券を一枚買う。駅のスタンプは無いようだ。これだけこなすと結構忙しい。それから列車に乗り込む。



The train at Iwamnai station
岩内駅に停車中の列車

 16時26分、932D小沢行列車は定刻で岩内を発車した。2両のキハ22は高校生で満員だ。列車は変化に乏しい夕暮れの山並を両窓に見せながらのんびりと走ってゆく。客は駅に着くたびに減ってゆき、終点近くになると僕のほかに二、三人だけになっていた。宵闇も迫って車内が侘しい。

 16時50分、小沢着。短いローカル線の旅は終わった。岩内線は極めて印象の薄い線だった。この小沢にしても分岐駅だというのに全く活気が無い。眠っているかのような駅だ。古びた跨線橋を渡って函館本線のホームに立つ。3分の接続で札幌行き905D急行「らいでん5号」に乗り継ぐ。たった二両のディーゼル急行は暗い山道を走ってゆく。余市を過ぎたあたりで車窓左下に海が見えたが、その水面もまた黒かった。

 結局、今日の走破区間は岩内線だけだった。景色が見える時間帯に普通列車で乗った区間を走破区間とすることにした。もちろん連絡船も走破区間となる。この線に乗るために今日一日列車やバスを乗り継いできた。明るい街の灯が見えて、18時26分、札幌着。今夜は手足を伸ばして眠ることができる。


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